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執筆者の写真smo inc

持続可能な企業の条件


1994年、ジム・コリンズはジェリー・ポラスと共著で、『ビジョナリー・ カンパニー~時代を超える生存の原則』を出版した。オリジナルの英語版の題名は「Built to Last」つまり、持続できる企業、ということだ。この本の中では持続する企業として具体的に18社の 「ビジョナリー」な企業名が挙げられた。あと2年で出版から30年、本に登場するビジョナリーカンパニーはいかに業績を残してきたのか? 実際のところ、それらの半数近くの企業は、当時の「ビジョナリー」であった評価をもはや維持できていない。ソニー、ウォルト・ ディズニー、フォードなどの企業は、いっとき業績が悪化したが、 返り咲きを遂げた。一方で、メルクは2008年に違法リベートが発覚し、さらに2017年には自社の薬が心臓発作のリスクを高める事実を隠蔽した。モトローラは市場に追いつけず、スマートフォンの登場によって衰退していった。ボーイング社では、安全よりも利益が優先された結果、2件の不運な事故を招いた。


その後2001年に発刊された『ビジョナリー・カンパニー2― 飛躍の法則』内では、飛躍を遂げた企業11社を選定し、分析している。しかし一冊目と同様、これらの企業の多くは衰退してしまっている。 私たちが個々人として間違った判断をしてしまうのと同じように、 完璧な組織は存在せず、彼らも間違いを犯すことがある。しかし、これらの偉大と呼ばれた企業の盛衰を見てみると、企業の持続可能性について考えさせられる。 より持続可能でレジリエントな企業を築くには、一体どうすればよいのか? この二冊の中でビジョナリーとされた企業はみな、確かに当時は偉大だったが、一方で、失墜しやすい可能性をはらむ共通項が 1つあった。それは、これらの会社が全て上場企業だということだ。



利益パフォーマンスによるプレッシャー


『「顧客愛」というパーパス』の本の著者(ネットプロモーターシステム 創業者)によると、それらのビジョナリー・カンパニーは金融資本主義の視点で選ばれ、成功を金融資本主義(主に利益)で測ったのが彼らの衰退の理由であると主張した。利益優先になると、顧 客とパートナーを都合の良いように動かし、有害な近道を取るようになってしまうという。 上場企業の話に戻ろう。上場するということは常に株式市場からのプレッシャーと向き合うことにもなる。企業は財務業績ばかりに目が行きがちで、この圧力が常に発生する状態は、いわば企業のパーパスが退化しやすい状況にあるということだ。つまり、自社が宣言した志の高いパーパスだったはずのものが、株価を最大化するための原始的な単なる利益追求の目的に成り下がってしまうということである。オフィスの壁には綺麗で心に響くようなパーパスが掲げられていても、実際の会社の行動、そして目的までもが利益の追求へとすり替わってしまうようなことになるだろう。



パーパス主導型企業を育てるということ


栃木県のイチゴ農家では、毎年9月になると、冬から春にかけてのイチゴの収穫に備えて、苗の植え付けが始まる。イチゴが育 つためには、光、二酸化炭素、水、そして養分の豊富な土に加え、 周囲の温度を18~25度前後に保つ必要がある。そこで、グリーンハウス(温室)の存在が重要となる。ハウスでは温度を調節し、風や外敵などの悪条件から植物を保護する。 大局的に見れば、パーパス主導企業を育てることはつまり、デリケートなイチゴを育てるようなものだ。


 

PATAGONIA

半世紀前にカリフォルニアのビーチタウンで創業したアウトドアウェア・ブランドのパタゴニアは、後継者育成の計画を進める一方で、気候変動問題への解決方法を模索していた。検討されていたのは、2つの案だた。


1. 会社を売却し、その代金を寄付する。しかしこれには、新しい経営者が価値観を維持できるのか、世界中の従業員たちを引き留められるかどうかというリスクを伴う。


2. 株式を公開し、事業規模を拡大するための資金を得る。しかし創業者のイヴォン・シュイナードは、この選択肢は会社を“短期的に利益を生み出さないとならないプレッシャー”にさらすことになると考えた。


パタゴニアはどちらの選択肢にも満足できず、結果、パタゴニアの所有権を、2つの異なる事業体に移すという新しい計画を立てた。


パタゴニアの議決権付き株式

会社の理念と価値観を守ることを目的に、パタゴニア・パーパス・トラストを設立。パタゴニアの議決権付き株式の100%はこの信託に移管された。


パタゴニアの無議決権株式

パタゴニアからの資金を地球保護に役立てることを目的に、ホールドファスト・コレクティブというNPO法人を設立。議決権のない株式は全てこの団体に移管された。


環境危機と戦うための継続的な資金提供

毎年、パタゴニアが事業への再投資後に残った資金は、配当金としてNPOに送られる。この新しい運営管理システムにより、パタゴニアのパーパスや価値観を守り、さらには、環境危機に立ち向かうための資金を継続的に提供することで、目的を実現することが可能になったのだ。 創業者はこの計画についての説明のくだりで、「地球だけが唯一の株主」であるとしている。


ZEBRAS UNITE

ユニコーン企業の最終目標は、通常、IPOまたは買収である。現在のベンチャーキャピタルの環境は、ユニコーンを生み出すことに偏っており、こうした環境は、「社会的あるいは環境的にポジティブなインパクトを生み出すことに焦点を当てたスタートアップ」 にとっては問題である。これらの企業は成長を望んでいるが、最終的な目標は評価額を上げることではなく、現在の環境ではベンチャーキャピタルへのアクセスを阻害している。 2015年、4人のアメリカ人女性起業家が集まり、「ユニコーンを目指さない企業コミュニティ」を立ち上げた。これらの企業は、持続的に社会とコミュニティに貢献することを目標として掲げ、同じ志を持つ企業と協力し合っている。彼らはこのようなスタートアップを「ゼブラ企業」と呼び、このコミュニティを「Zebras Unite」 と名付けた。世界中に1万人以上の創業者、投資家、弁護士、会計士、慈善家がいるZebras Uniteでは、リソース、サービス、 資本やゼブラ企業のニーズに合った、他の企業へのアクセスなどを提供している。このコミュニティの一員になることで最も価値があるのは、自分が一人ではないことを知ることだろう。Zebras Uniteは、"速く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け"というアフリカの諺に喩えられる。

LONG TERM STOCK EXCHANGE

証券取引所に上場している企業を、ある街に見立てて想像して みよう。そこには、2種類の人がいる。


1. 観光客:

これらの都市を飛び回る短期的な投資家。


2. 長期滞在者:

その都市にずっと住むつもりの長期的な投資家。


この世界では、都市は観光客と居住者の双方を満足させなければならない。居住者と同様に観光客も投票権を持ち、都市をどのように運営すべきかについても同等の発言権を持っている。 住民であることのメリットは、実はあまりない。一方、市では、観光客へのサービスにリソースを割かれ、長く住む住民にうまくサービスを提供できていない。これが今の証券取引所である。ベストセラー『リーン・スタートアップ』の著者であるエリック・リー スは、証券取引所をより良い形にしようとしている。伝説的なベンチャーキャピタリストの支援を受け、2019年に「Long Term Stock Exchange(LTSE)」を設立したのだ。LTSEは、長期的な考え方を共有する企業や投資家を揃えることを目的としている。この取引所の主な特徴は以下の通りだ。


– 投資家が株式を長く保有すればするほど、議決権が増加する。

– 企業は、どのように長期的なビジネスを構築しているかを説明する方針と文書を提供しなければならない。

– 長期的な視点に立った報酬体系を導入する。


まだ始まったばかりのこの証券所には、今のところAsana(アサナ) とTwilio(トゥイリオ)という2つのテック企業が上場している。この試みが成功かを判断するにはまだ早いが、証券取引所の在り方を問題提起したことは間違いないだろう。企業が持続可能であるためには、観光客を重視せず、長く住む住民がより多くの発言権を持ち、市政府が住民の生活をより良くできるような場所で活動する必要があるのだ。


 


長期的なその先にあるもの


では、長期的なその先には何があるのか? を考えてみよう。企業が永続的に続くためには、「長期的な視点」だけでは不十分だ。 ビジネスというゲームには、ゴールがない。終わりはないのだ。経営コンサルタントでベストセラー作家のサイモン・シネックは、著書『The Infinite Game』の中で、これを「無限ゲーム」(終わりのないゲーム)のマインドセットと呼び、リーダーは自分たちの組織が終わりのないゲームプレイをしていると認識しなければならないと指摘する。そして、ビジネスという終わりのないゲームで成功するためには、「誰が勝つか、誰が一番かを考えるのでなく、何世代にもわたってゲームに参加できる、健全で強い組織をどう作るかを考えなけ ればならない」と主張する。では、それに気づいたリーダーは、何から手をつければいいのか? サイモンの言葉を借りれば、このゲームをするための基礎であり出発点は、「WHY」、つまりパーパスだ。


持続するにはマクロ視点とミクロ視点が必要


イチゴを実らせるには、温室が必要であるように、企業が成長し、持続するためには、温室が必要なのだ。ここで今一度、あなたのビジネス環境について考えてみよう。まず、マクロ的に見た時、客観的視点で、あなたの組織が成功するための適切な条件は揃っているだろうか? 例えば、パタゴニアのようにパーパスがより実現できるようなガバナンスの仕組みがあるのか?または、Zebras Uniteのように、同様なマインドセットや価値観を持つコミュニティに属しているか? そして、ミクロ的な視点では、イチゴは一粒の種から始まる。 そこにこそ、企業が考えるべき本質的な問いがある。なぜ、私たちはこの美しい地球に存在しているのだろう? そう、企業が永続的に発展するためのはじまりの種こそ、その企業のパーパスに他ならないのだ。




 

<こちらの記事は、SMOタブロイド誌「TOKYO 2023」からの抜粋です。

タブロイド誌全編は、こちらよりダウンロードいただけます>


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