SMOと多く協業し、数多くのパーパスステートメントを開発している、クリエイティブディレクターであり、またコピーライターでもある鈴木武人さんに、広告における表現開発とパーパスにおけるそれとの違いについてお聞きにしました。クリエイターの立場からパーパスについての見解を語って頂きました。
(インタビュー:SMO 青山永 たき工房 竹嶋晋)
青山:今日は、パーパスについてよく知るもの同士でクリエイティブとパーパスについての話ができれば、と思います。
鈴木:僕のパーパス歴は、まだまだ短いですから。
青山:今も、パーパスとワンワードで言っていますが、企業には昔からそれに類するものが企業理念や経営理念という形で存在していますよね。しかしここ最近世の中で注目されているのは、パーパスの後にパーパス・ブランディングやパーパス・経営という言葉がついた形のもので、パーパスというものがブランディングや経営に使える、というところだと思います。はじめてお仕事をご一緒させていただいた時にも、パーパス・ブランディングとは何かという話をしたと思います。
鈴木:最初にSMOさんとお会いした時まで、大変お恥ずかしいですが、パーパスという概念を知りませんでした。お会いしてすぐご説明いただいたし、SMOさんの作られているパーパス・ブックや事例なども拝見して、その日のうちにパーパスというものの佇まいは理解したつもりです。いろいろなクライアントさんとの仕事を40年以上やってきて、ブランディングも相当やってきました。そしてその各企業さんには企業理念とかミッションとか、名称は変われど、そういうものはどこの会社でも同じように存在していたし、「あ、そういうものが今は『存在理由』というもう少し踏み込んだ概念なんだな」というところま
ではまずわかりました。
青山: 実際に仕事をしてみて、理解や認識は変わりましたか?
鈴木:パーパスというものは、作っただけでは意味がない、作って置いておくものではないということです。それを活用して、インターナル、エクスターナルあわせてブランディングに活用していくものだし、それは経営者が変わっても変わらない、企業が容易には変えてはいけない一つの本質。そういうことだと思うんですよね。
青山:すっかりパーパスを理解されてますね。
鈴木:ブランディングというものが、自分のやってきた広告の生業からすると、一番近い言葉ではある。ただ、その成果物というものは、広告だと社名の上に乗っかるスローガンや、今はVIと言われるシンボルマーク、そしてロゴとか。たいてい言葉とピジュアルで、そういうアイコン的なものをアウトブットするというのが、企業ブランディングという仕事。一度スローガンやVIを決めると、それが商品だろうと広告だろうと全部に貼りつくわけです。
商品とか企業を全部包み込む、包装紙みたいなもの。つまり、僕がやってきた広告代理店の行う企業ブランディングというのは、メッセージを刷り込んだ見栄えの良い包装紙をつくることが仕事だったのかもしれないんですよね。ただ、青山さんたちが言うパーバス・ブラン
ディングというのは、ガワをつくるのではなくてナカ、さっきアイコン的なアウトプットと言いましたが、もっとそのおおもとにある企業独自の考え、存在理由であり、そこに踏み込んでいって、それを今の時代に通用する言葉に生まれ変わらせて命を吹き込み、ブランディングやマーケティング、あるいはマネジメントにつなげていくわけです。僕がブランディングの仕事をしていた企業さんにも、当然のことながら企業理念があるのですが、それは僕たちの仕事においては、常に与件なんですよね。それを触るという考え方は、つまり広告会社が議論する企業ブランディングの仕事の中には、一切なかった。理念は理念でこういうもの、というのはクライアントと共有するけれど、作るのは様々なコミュニケーションで活用するスローガンでありVI。つまり、企業理念は与件であり、ある意味、聖域にずっと置かれ続けていて、そこに手をつけるということは全く想像だにしなかったんです。パーパスの仕事では、その聖域にあった企業の御本尊みたいな言葉をもう一回引き摺り出してくる。その御本尊は、長い歴史を持つ企業であればあるほど言葉遣いも古い。それを引き摺り出してきて、今の社員、今のお客さん、これからの社員、これからのお客さんでも、みんなが共有でき、みんながそれぞれ活用できる言葉に生まれ変わらせて、そこからブランディングをやり直す。それは、僕がやってきた広告会社のブランディングとは明らかに違うわけです。
企業理念と同等であるパーパスをブランディングに活用していくということを想像した時に、極めて新鮮でした。
竹嶋:広告のブランディングを包装紙に例えていらっしゃいました。バーバスは何に例えられると思いますか?
鈴木:包装紙は、何かのガクを作り、ガワを見せるもの。バーバスはその包装紙を開けて、ナカにあるもの自体をメッセージの主役にするということですよね。コミュニケーションの主役に置いてあげる。企業そのものということだと思うんですけれども。
青山:包装紙も大切で意味はある。何かを言葉にする、何かを目に見えるものにするということは等しく大切だと思うんですけど、広告とパーパスとでは、表現開発をされる時に違いはあるんですか?
鈴木:まだ試行錯誤しながらですが、まず明らかに言えるのは、どちらにせよ広告のコビーを作る時とパーパスの文言を考える時に共通していることとして、その商品や企業の価値の本質をきちんと掴まなくてはいけないというところ.これがいわゆる、What to say、How to sayで分けるとすると、What to sayの部分で価値の本質を掴む。これはまず同じ。
How to sayの部分では、広告のコビーは人の心の中に入って、心を動かして、実際のアクション、行動に結びつけないといけないですよね。ワーディング的には、エモーショナルにしなきゃいけなかったりする。商品を売る場合だったら、商品を買ってもらわないといけないし、企業ブランディングであれば企業を好きになってもらわないといけない。バーバスも同じだと思うんですよね、パーバスも青山さんが言っていたように、活用されていく言葉でないと意味がない。社員の皆さんが自分ゴト化して、自分の日々の仕事に結びつけて、それによって自分の行動を昨日とはまた違うものにしていってもらわないといけないわけです。そういう行動に結びつけるエモーショナルなパワーというのは、絶対に両方に必要なんだと思います。特に、パーパスでそうした力が必要なんだというのを、最近より強く思い、そういう言葉をできるだけ作っていきたいと思っています。
青山:わかります。武人さんの開発するパーパスは人を動かす力があります。
鈴木:一方で広告とパーパスの開発の違いは、広告の場合、コピーって表現の一つの要素に過ぎないんですね。その広告で言わなきゃいけないメッセージを、コピーが全て背負わなきゃいけないということはないんですよ。メッセージを全て集約して発信するというよりは、むしろ気づきというか、そういう役割でも良かったりするわけです。だから、ある表現の中にいろいろ存在するHow to sayの要素の一つでしかなかったりする。それと広告には、ブランディングに貢献しようとするものと、もう少しプロモーションに寄ったものがありますよね。プロモーション広告は、そのバジェットを投資するある期間で、どれくらい売り
上げに貢献できるかという、かなり限られた時間の中で機能させる役割で作るわけです。
そうなると、やっぱりその商品の価値をどう言うかということよりも、例えば、夏のキャンペーンなら、この夏のお客さんの関心事、世の中の風向きみたいなことにどうチューニングするか、ということが重要だったりするんです。
広告では即時性と言ったりしますけど、そういうことの方がむしろ本質的なメッセージより大事になったりします。ただ、パーパスの言葉は、時流感は関なく、普遍的で、時代を超えていく。もちろんパーパスは未来永劫変えてはいけないということはないのですけれど、
広告とは全然違う時間軸の中で、一つのメッセージをきちんと背負って、過不足なく表現し切るということが求められる言葉だと思います。
竹嶋:表現そのものでの違いはありますか?
鈴木:パーパスの言葉は短ければ短いほど良いわけですけれど、その中でその企業独自の佇まいと、その企業の存在理由は何かということを、過不足なく言い当てないといけない。それは、コピーライターからすると、何かを書くと言うよりも、答えを見つける感じてす。パーバスというのは、数学なんですよね。全然文学とか芸術とか、そういう世界ではない。
企業がこれまで大切にしてきた理念があって、歴史があって、DNAがあって、現状のビジネスの強みがあって、市場での評価があって、目指す将来像があってと、いくつかの
「与件」「条件」をもとに、パーパスの要素を整理していく。このプロセスは、数学で解答に向かって数式を整理していく感覚に似ています。いわゆる広告の仕事とは違い、明らかに今は数学の問題に取り組んでいる感覚です。SMOの青山さんと宮内さんのお二人がなかなか「うん」と言ってくれないので(笑)本当に試験で数学の問題を解くみたいにやってます。広告のコビーの答え方はいくつか方法があったりしますが、パーパスの答えは常に一つ。
そして、それをできるだけ短い、できるだけ少ない語数で、しかも人によって解釈される幅を可能な限り狭くして表現する。ただ、誰でも自分ゴト化できないといけないので、それだけの懐の深さを持たせる。その文言の意味自体を、読む人によってAに行ったりBに行ったりCに行ったりするということができるだけない、解釈違いはある意味拒絶できるくらい
のブレない正確な単語で、できるだけ少なく言い切る。こういう問題をもらった受験生のような感覚ですね。でも、それは自分がこれまで広告で培ってきたスキルを、最大限使える、極めてやりがいのある問題ですね。
竹嶋:解が明らか、というのは心地良いですか?
鈴木: そうですね、やっぱり解けたっていう感覚は心地よいですね。広告コピーは「これ良い感じだけどなー、どうかな?」っていう感じなのですが、数学の問題だから「あ、これ解けた」という瞬間があるんです。明日、すぐ見せに行きたいって思います(笑)。でも、僕は数学だと思っていても、皆さんはそう思っていないから、幅を見せながらひとつひとつ「変数」を整理しながら、「正解」へ導いていく感じです。ちょうど昨日もプレゼンしてきたのですが、クライアントと一緒に少しずつ「正解」に近づいている感じですね。最終
的には、数学。パーパスのコピーライティングは数学です。
青山:パーバスを作るときは論理的に考える部分と非論理的に考えるところがあると考えていて、この二つがうまくマッチしないと良いパーパスは生まれないと考えています。
竹嶋:なにか方程式っていうのは決まっているのですか?
鈴木 :方程式はないですね。まずは式を見つけるところからはじまる,そして変数を整理していく。要するに問題に対し、数学的にアプローチするということですね。
竹嶋:1から作るということが数学的なんですね。
鈴木:そうですね。エモーショナルな部分を入れ込むところまで含めて、正解を作る作業ということです。
青山:最後に武人さんの考える、クリエイティブの存在理由を教えてください。
鈴木:SMOさんとお仕事をするようになって、当然「僕の存在理由ってなんだ?」って考えるようになりました(笑)。それは、僕にとっては、ご質問通り「クリエイティブの存在理由」と等しくなると思うのですが広告の仕事は一言で言うと課題解決ですクリエイティブはその中心を担います。課題は短期て答えを出さなければならないものもあれば、長期で取り組むものもあります。いずれにしても、その解が僕たちの、クリエイティブの仕事のゴールとなります。ただ、その「ひとつの仕事の解法当に自分たちの役割なのだろうか、と考える訳です。僕の答えはこうです。僕は、クリエイティブの存在理由というのは、広告だろうとパーパスだろうと、そのクライアントの「ブランド価値」をあげるということなのではないかと。もちろんひとつのプロモーションが成功することも大事なのですが、やっぱりその企業が長く存在していくためには、ブランド価値が継続して成長していくことが大切です。そこにコミットすることが僕の存在理由。そこまで考えないといけないなと、SMOさんとお付き合いをしていて感じさせられます。SMOさんのブランド価値を上げ、そして担当させていただいているクライアントのブランド価値を上げることができたら、そのためのお手伝いができたら良いと思っています。
鈴木武人(すずき たけと)
株式会社タケト、クリエイティブディレクター、コピーライター。
2016年5月まで電通第4クリエーティブプランニング局局長、
エグゼクティブクリエイティブ ディレクター、コピーライター
主な業務と受賞歴は、トヨタ自動車クリエイティブ統括、
SONY、アサヒビール、NTT、三井不動産、久光製薬等担当
ニューヨーク ADC金賞、カンヌシルバー&プロンズ、
新聞広告賞グランプリ、雑誌広告賞グランプリ、ACC ゴールド、
毎日広告賞グランプリ、TCC最高新人賞その他受賞多数。