SMOチームメンバーが、月替わりでパーパスフルなもの、コト、最新のトレンド情報、旅のレポートなど、未来のタネになりそうなネタをお届けするこちらのコラム、今月は、CEOの齊藤三希子より、開発が進む商業施設についてです。
(虎ノ門ヒルズ公式Youtubeより)
先日オープンした、虎ノ門ヒルズステーションタワーに行ってきました。まだ一部開業のソフトオープンですが、さすが森ビル!を感じるエッセンスがギッチリ。ロビーとフードモール「T-MARKET」はNYのThe Tin Building、そしてソウルの現代百貨店を彷彿とさせるものでした。
そこで、今回は、わたしがこの夏訪れたソウルのトレンドスポットから、日本の商業施設の課題、そして参考にすべき点を書きたいと思います。
スモールプレイヤーの台頭
ソウルの魅力は、語り尽くせませんが、「スモールプレイヤーの台頭」この一言が大きいと思います。今、一番のトレンドスポットである聖水(ソンス)。人気ショップやカフェが並ぶここには、DIORなどのラグジュアリーブランドが出店する中に、エッジが効いたスモールプレイヤーも。歴史やバックグラウンド関係なく、「感度の高いお客様に認めてもらいたい」というブランドがスーパーフラットに存在しているところに価値がある場所なのです。
その聖水のエッセンスを、もっとコンパクトに柔らかく、わかりやすくまとめたのが、ソウルの政治経済の中心地・汝矣島(ヨイド)にあるThe Hyundai Seoul。現代百貨店が2021年に作った最新店舗で、今の韓国·ソウルが注目される理由が詰まっています。
ここも、百貨店らしくハイブランドは一通り抑えてはいますが、ハイブランド以外をミックスした、地下2階の「CREATIVE GROUND」こそ、商業施設の未来の一つの形なのではないか、と仮説しています。
「CREATIVE GROUND」は、ARKET、NIKE Rise、ADIDAS STADIUMなどのグローバルブランド、MARTIN KIMなどの韓国発の人気デザイナーブランドが並び、加えて、スモールプレイヤーも大充実。カロスキルにあるコンビニをコンセプトしたNICEWEATHERも入っていて、楽しさ倍増です。ポップアップスペースには話題のショップが出店しているので、29CM GALLERYやPEERなどのセレクトショップと合わせてチェックすれば、トレンドが
一目瞭然、かつとにかく楽しくてアガる、という構成になっています。インターネット上で何でも買える今だからこそ、実体験からワクワクやドキドキを得られるといった、リアルな店舗に行く意味を捉える必要があります。現代百貨店(The Hyundai Seoul)、中でも特に「Creative Ground」に人が集うのは、リアルに訪れるからこそ得られる買い物以上の何かがあるからこそです。
いっぽうで、虎ノ門ステーションタワーのフードモール「T-MARKET」にも、同じものを感じました。ここの出店テナントは、すでに商業施設に出店しているような、大企業がオーナーのチェーン店ではなく、スモールプレイヤーであるいわゆる個店を中心に構成されており、リアルに、ここに訪れるからこそ得られるワクワクやドキドキの種が仕掛けられています。
スモールネームとビッグネームが同じ土俵でフラットに見ることができるようになっている、これはデベロッパーにとっても、良いテナントを見つけやすい状況です。
良いもの、クリエイティブなものを提供していれば、ブランドの規模感を問わず、広がっていきます。ある種、これからのスターになっていくアイドルを見つける感覚と似ているかもしれません。
究極の空間アート
現代百貨店(The Hyundai Seoul)で他にも注目すべき点は、空間の完成度の高さです。1階から入った店内は真っ白な空間と吹き抜けが印象的で、メタポリズム建築を彷彿とさせます。追求された空間は、メンテナンスさえ怠らなければ、10年20年経っても、古く感じない施設になるのではないでしょうか。
ともすると無駄と思われてしまうかもしれない”空間”ですが、これが重要です。商業施設や百貨店は、当たり前ですが、モノやサービスの提供や賃料収入で成り立っています。となると、理屈だけ言ってしまえば、どんなスペースでも売り場にしてしまった方が効率は良くなります。しかし、お客様に来ていただくためには、そこに来る「意味」が重要です。「ショッピング」という体験を、オリジナルなものにするためにパブリックスペースの重要性はますます高まるでしょう。
一般的に日本の商業のダメなところは、こうした空間デザインが後回しになっていて、お金をかけない(かけられない)ので、デザインに拘らない(ように見える)ところ。結果、どこを切っても同じような顔のところが多くなってしまっています。
その点、虎ノ門ステーションタワー始め、ヒルズに代表される森ビルの多くの施設は、パブリックスペースや空間デザインに力を入れていて、長く時間が経っても古臭くならないような作りになっています。オリジナルな開発ができるのは、日本では森ビルしかないのでは?と思ってしまうほど。息の長い商業施設を追求していく森ビルの新開発、続く麻布台ヒルズも、楽しみしかありません。
(SMO 代表取締役 齊藤 三希子)
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