“おいしいコーヒーをより多くの人に届ける”をミッションとしているブルーボトルコーヒー。洗練された空間、美味しい一杯のコーヒーで顧客体験をデザインする背景にはどのようなストーリーがあるのでしょうか。代表の伊藤氏にお話をうかがいました。
(インタビュー:SMO 齊藤三希子)
齊藤:ブルーボトルさんはパーパスフルに志し高く事業展開なさっているので、インタビューのご縁を頂けて大変嬉しく思います。伊藤さんがブルーボトルに入社されたきっかけは何でしょう?
伊藤:最初は商社にいて、会社の派遣で留学をさせてもらっていました。当時はスポーツビジネスをやりたいとずっと思っていて。あともう一つ、留学で気づいた「ダイバーシティ」、この2つを念頭に2年間過ごそうと思っていました。生い立ちになりますけど、父親の仕事でエジプト、スイス、アメリカ、日本に住んで、人種も考え方も違っていても友達になれるじゃんと。でも、世の中を見ると紛争がある。高校のとき、生徒のほとんどが有色人種の公立学校に入って、コミュニティに入るのがかなり大変でしたが、バスケットボールをきっかけに壁を取り払った。その体験から、チームを作って、壁を取り払って、新しい価値を生みたいというのを思うようになりました。そうやって最終的にみんな友達になれる、それを一番自由にできるのがビジネスかなと、でもどんなビジネスかわからないから、とりあえず総合商社にいこうかなって(笑)。そこでは、金属の資源をやっていたんですけど、パッションが湧いてこない。だったら、いろんな人を本質でつないでいくカルチャーをスポーツでどうやったら広げていけるかを考えるようになった。珈琲や飲食に興味があったというわけではなく、友達がブルーボトルの立ち上げメンバーに入っていて、商社派遣留学中のある日電話をもらって、「もうあと2週間でオープンするんだけど、ロゴ入りの紙コップが日本の税関で止まっちゃって、商社だったらどうするか」って聞かれて、いろいろ教えたんです。それを機に、2015年の2月から卒業の5月まで、ちょうど時間もあって、面白そうだなって思ってインターンをしたのが最初のきっかけです。
齊藤:その時の印象、感想は何かありますか?
伊藤:その時は会社も小さかったし、日本に出たばかり、アメリカもNYとLAに出てるくらいで、手作り感満載で、レンガのオークランドの海沿いにあるのがオフィスで、そこに僕は最初はチノパンジャケットで行ってたけど、デニムTシャツでもいいんだみたいな(笑)。アメリカのスタートアップってこういう感じなんだと。僕が引き込まれたのは、ファウンダーのジェームス。彼は芸術家で、コーヒーにパッションがある。デザインに対しても、ビジネスにしても、スケールすることにもパッションがある。いろんなメンバーがいて、あんまり口に出してないんですけど、お互いのいいところを引き出して、新しいものを作るのに時間とエネルギーを使う。そういうカルチャーが、そういう人たちがいるんだ!コーヒーだけじゃない体験のチームがあるんだ!というのが衝撃的だったのを覚えています。自分の軸である「ダイバーシティ」という考えが共鳴して、スポーツじゃなくてもこんなのがあるんだと思いました。
齊藤:その後、しばらく商社に戻られたんですね?
伊藤:はい、商社に戻って、違う部署に入ったんですが、でももうインターンの時点で心は動いていて、(ブルーボトルで)働きたいと思っていました。けれど理屈っぽく「社費で留学に行かせてもらったし」とか、単純にビビってたというのもあって、転職はできなかった。自分の人生を選択して積み上げていく感じがアメリカの時より薄れていったことに、不安、恐怖も芽生えて、10ヶ月くらい散々悩み・・・、幸い声をかけていただいたタイミングも合い、帰国して1年くらいでブルーボトルへ移って、今5年目くらいです。
齊藤:入られてから、みんなを引き出すカルチャーは、この5年で、より強く感じるところはありますか?
伊藤:根底の部分としては、今でもあります。ただ、会社が大きくなって、皆がジェームスを知っているタイトな感じから、カフェに行って素敵だったから働きたいという人も多くなってきました。必ずしも皆がコアのDay1を知っているわけではない中で、チームや新しい形を作っていくというのが、難しいですね。全員がイキイキと働けるのを目指しているけれど、まだ道半ばです。日本でカルチャーや大事にしていることを発信しだしたのは結構最近で、言語化したのも会社として数年前からです。その前は「わかるよね?」という空気感みたいなものがあったのですが、いろんなメンバーが入っていくにつれ、「僕らの大事にしていること」を言語化するタイミングがきました。
「あの人は、すごいブルーボトルっぽいね」とか、「ぽくないね」っていうのは危険で、ともすれば排他的になるし、新しいことが入らなくなってしまう。だからこそ、言語化して、これは外せないというものを共有して、それ以外の部分はオープンマインドで受け入れていこうというのを、最近試行錯誤でやっています。日米でも連携を取って。コロナで色々変わってきていて、日米ともにどんどん変化しないといけない。アメリカでやっていることを、どう日本でローカライズしていくと本質的に伝わるか。もっと連携を取ってやっていく事を目指しています。
齊藤:本質的な部分を押さえていれば、ローカルなところは任されているのでしょうか?
伊藤:ブルーボトルはそこらへんがフラットで、本社から大方針が出てそれに従ってやりなさいという感じではなくて。対話して新しい反応をシェアしていかないことには、他国展開していく意味がないと。僕らはブランド・ビーコンって呼んでいるんですけど、日本はブルーボトル全体の中で、ブランドの発信源という位置づけになっています。新しい体験づくりとか、コラボとかを日本から打ち出していますね。
齊藤:先ほどの言語化の話ですが、ミッションに「美味しいコーヒーをより多くの人に届ける」とありますが、それに込められた意味を教えてください。
伊藤:言語化してあの言葉を作ったときに、ベイエリアで生まれて、ファーマーズマーケットでジェームズが豆を挽いて・・から始まり、美味しいということ、鮮度に応対すること、サステナブル、ホスピタリティー・・・、ヒューマンタッチがしっかりあるようなキーワードの数々が出ました。ただそれらを原点として持ちつつ、美味しさという体験をより多くの人に広げていく、というのが僕らの大きなチャレンジでした。「一つのクオリティにこだわると、スケールと両立しない」という定説に、クエスチョンを投げかけるというのが常に大きなテーマとしてありますね。商品開発でも、インスタントコーヒーとか缶コーヒーとかも出しているんですけど、缶コーヒーはアルミの味がしてあまり美味しくないよねとか、甘いだけとかだよね、とかっていう固定観念は、本当にそうなのか?と。これだけ技術も進んでいるので、数十年前にはできていなかったかもしれないけど、今だったら本当に美味しいものが作れるんじゃないか?とクエスチョンしていく。ブランドのアプローチとして、クオリティが薄まらずにスケールできるはずだと。
空間、人、素材の3つが大事で、美味しい体験は素材からも来るし、スタッフがすごく親切に接客してくれると体験って変わるじゃないですか。より美味しく感じてまた来ようとか。美味しい時間、優れたデザインで空間を作っていって、単にフォーマット化されたものでない一つ一つのストーリーを大事に、それをより多くの人に届けるという意味も込められています。
“おいしいコーヒーの”定義とは?、ブランドを維持する上でこだわっているポイントなど、
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