「明治おいしい牛乳」「ロッテ キシリトールガム」など、誰もが頭に浮かぶデザインを多く世に生み出されている佐藤卓さん。実は、SMOのロゴも過去に佐藤さんに作っていただいたものです。
様々な分野の第一線で活躍される佐藤さんに、デザインと強いプランドの関係性、そしてブランドが今後どうあるべきかを、お話しいただきました。
(インタビュー:SMO 齊藤三希子)
佐藤さん:SMOさんがバーパスと、強く言い始めてからしぱらく経ちますが、ようやく世の中でパーパスと言われ始めましたね。パーバスは重要ですよね。その会社がどんな言葉を財産に持っているか、その企業というのを一言で表しているかは僕も必ず見ます。齊藤さんの出した本も読んで、いろんな企業と接するときの参考になっています。
齊藤:ありがとうございます。佐藤さんは、グラフィィックデザイザインにとどまらず、いろんな方面でご活躍でいらっしゃる。
佐藤さん:ありとあらゆる、お仕事をさせいただいて、企業のコーポレートアイデンティティとか、VIとかをつくったり、展覧会を企画・開催したり、テレビ番組をつくったり。ブランディングでいうと、周年プロジェクトのお手伝いや、SMOさんがされている企業のパーパスを作ったりも。僕は何でも遠慮なくご提案しちゃうんで、「企業のパーパスがこれじゃダメなんじゃないですか」って、平気で笑顔で言うんでね(笑)。
齊藤:それで実際に変えた企業もあるんですか。
佐藤さん:「時間も予算もかけちゃったので、変えられません。」ていうこともあるし、
ある仕事では、依頼もされてないのに、「この言葉どうですか?」って持っていったら採用され、今度はロゴとかシンボルがその言葉にふさわしく
ないからそこから何かしましょうかとか。
齊藤:逆から遡ったみたいな。
佐藤さん:元々は施設のデザインの依頼で、それ自体は素晴らしい仕事をやっているのに、会社で出している言葉が時代に合っていなくて、私が疑問を感じて「このロゴで、このマークに対して、なぜこの言葉なんですか。この言葉ならみんな言えちゃいますよ。この会社だからこそ言えることがあると思うんですけど。」次の時に勝手に言葉を作って持っていったんです。そうしたら、「これ!これが言いたかったんです。目から鱗です。」って言ってくれて、その後、代表も「それにしたいと思います。」って。もちろん迷惑をかけたくないので、およびでないと言われたら、与えられたお仕事をきちんとするんですけどね(笑)。正直なところをお伝えしています。
齊藤:企業ロゴのデザインに問題がある場合もあるわけですよね?
佐藤さん:ロゴを見るとその企業のクオリティーがわかります。ロゴは企業の顔ですから、企業の指標・基準になるんですよ。クオリティーの高いもの、つまり時代に風化せず10〜20年残るものは、プロが見るとわかるんです。逆にロゴがイマイチだと、やることがいっぱいありそうだな〜って。「このロゴはいつ作られていて、この部分はいつ?」と丁寧に見ていって、時間が経っていたら手直しできますけど、最近変えたのであれば、大問題だなと(笑)。代表の見る目がないか、見る目のある人に任せられないケース。
齊藤:クオリティの高い「顔」をもつことが、強いブランドに繋がっていくということなんですよね。
佐藤さん:絶対です。一流の企業やブランドは、ロゴが良くできている。ちょっとずつ直していたりもするんですよ。一般の人には気づかれないかもしれないけど、プロが見たらわかる。このブランドにしてはイマイチなロゴだなと思っていたら、ある時手直しがされていて、「あ、ちゃんと見る目を持った人が加わったな」とイメージが良くなったり。
齊藤:一般の人も、明確にわからなくても、なんとなくは感じていますよね。
佐藤さん:そこが本当に馬鹿にできないところです。一般の人は、パッと見てもわからないかもしれないけど、10年20年経つと、「なんかイマイチだな」とか、逆に「何の問題もないな」と、なんとなく感じてくる。すごく強いブランド・強い企業になった時に、ふさわしいロゴは、特にいいとも思わせないけれどハマってくる。一流の企業とかブランドはこれでいい。
齊藤:時代やトレンドに左右されないデザインということですね。
佐藤さん:時代を反映させると古くなっちゃう。その時代でかっこいいものは、必ずかっこ悪くなる。ブランドや企業は、10年単位で残ってくるので、「顔」は広告的に作っちゃダメなんです。
齊藤:パーパスの文言も同じで、広告コピーではないので耳あたりが良けれぱいいものではなく、本質的なところを捉えたものでなくてはならないと伝えています。
デザインやブランディングをするときに心がけていることは何ですか?
佐藤さん:デザインは、あいだを繋げるお仕事だと思っているので、「企業やブランドを、社会・世の中とどう繋いだらいいかを考える」。そのために、まずその組織が持っている良さを理解するんです。良いところを引き出し、全体の存在感としてのふさわしい佇まいをデザインする。それが、シンボルだったり、ロゴの形ですね。企業の中にいる方は意外と、自分たちの良いところに気づいてなかったりする。外の人間だからこそ気づける「あなたの会社のここが素晴らしいですよ!」ということを見つけて、どのメディアで、どういう言葉や表現でお伝えすると今の時代にふさわしいのかをご提案します。
齊藤:SMOの言う「本物」、強いプランド、とも言いますが、これについて、どう定義されますか?
佐藤さん:強いプランドの定義は今まで直球で聞かれたことがなかったので、考えさせられますけど⋯、やっぱり「確固たる信用と信頼」だと思います。信用は過去と実績、信頼は未来です。いいものを世の中に送り続けていないと、まず信用を得ることができない。信用を得れば、これからの期待が信頼に繋がる。この2つを獲得している
ブランドは本当に強い。
齊藤:では、佐藤さんが思われる強いブランドを教えてください。
佐藤さん:定期的に観測しているブランドはアップル。スティーブ・ジョブスとジョナサン・アイブがいなくなってから、少しブレてるところはあるけど、それでもやっぱり彼らのDNAが細部に渡って生きている。あとね、車が好きなんで、メルセデスベンツ、ポルシェ、フォルクスワーゲン、アウディ、ボルボ⋯、日本だと、最近はマツダ!デザインが良くなったなと思うし、実際、走っている台数がものすごく増えた。アップルは、パッケージーつとってもすごいし。体験のデザインも含めて良くできているので、見ざるを得ない、変な言い方ですけど、嫌でも目に入ってくる。影響力がそれだけ大きい。
齊藤:アップルはパーパスとして明言している文言はないのですが、パーパス的な芯が確実にあり、伝わって来るので、パーパス・ブランディングのお手本として私たちも常に注目して⋯せざるを得ませんよね。
デザイン、クリエイティブの立場から見て、彼らが強い理由はなんだと思いますか?
佐藤さん:デザインがいい。形とか色とかだけじゃなくて、インタラクション、サービスも全部含めて。UX、体験、スピード感とか、いろんな意味で気持ちがいい。そんな世界を作るのって細部にまで行き届いていないといけないので、すごい難しい。言語・国を超えて、「一体誰がこれを司ってるんだ!」というくらい世界規模で実現しているじゃないですか。全てのインターフェイスのデザイン言語が少なくて、シンプル。簡単そうで、難しそうに見えない、そういう入り口をありとあらゆるところに持っている。入り口が難しそうだとみんな入ってこないんです。
そしてあらゆるところにアイデンティティが行き届いている。否定のしようがないですよね。
齊藤:なので、アップルを真似しても、なんか違う?ってなっちゃうんでしょうね。
佐藤さん:ちゃんと監修してる人がいるんでしょうね。厳しい目でプロダクトをチェックする人が、代々受け継がれている。必ず代表は入れ替わるし、現場の人間も入れ替わって、普通は段々とダメになっちゃうけど、強いブランドは、人が入れ替わっても受け継がれる。これが重要ですね。ある世界観を守りながら、クオリティーをキープし続けるのは、すごいテクニックがいることです。厳しい目を伝授しないといけないし、それで強いモノが育っていく訳ですから。どこのブランド、企業でも人が入れ替わったときに、ブランド力が落ちないかどうかはすご
く大きなテーマです。その意味で、クリエイティブ面に厳しい目を持つ人が、経営と直結しているところに存在していないとね。デザインの監督をしている部署が下の方にある会社は、これからはダメだと思います。
齊藤:すごくわかります。テクノロジーが発展している時代にこそ、残っていくのはブランド力だと思うんです。クリエイティブな人が経営に直結しないと立ち行かなくなります。
佐藤さん:だから結局、組織の作り方ですね。デザインシンキングなんてもう10年くらい言われてるけど、組織体制を整えないと、クリエイティブな活動が起きない。クリエイティブな力が活きなくて、良いビジネスなんて何ひとつない!言い切ります!!洗練されたモダンなデザインにするという意味ではなくて、どんな田舎のモノづくりであっでも、そこの良さを最大限に世の中にどう伝えるかが大事。ふさわしいものをちゃんと活かせるかどうかはデザインなので。見る目をちゃんと持った経営と組織体制がないとこれからの時代、絶対生き残れない。それを無意識にやっているところもありますけど、受け継ぐ意識がないとその代で終わってしまう。だから人に依存しすぎてしまうといけないというのもブランドの難しさでね、成功したブランドでも10〜20年経つと、伝授というものすごく大きな課題が次に訪れる訳です。
齊藤:デザインの見直しは常にやっていかないといけないのでしょうか?または10年20年スパンで?
佐藤さん:ゆく川の流れは絶えずして、なので、常にですね。常にこのままでいいのか?と疑って。環境問題、SDGs...人の価値観、世の中は全て変わっていくので、10年後これで大丈夫なのか?常に疑いの目を持って、今のうちにこうしておいた方がいいと。そのときになってからではもう遅いです。
齊藤:クリエイティブ的な目を持った経営者、ってどういう人なんでしょうか。
佐藤さん:難しいんですよ。日本ではまだまだ育っていなくて。経営的センスと、クリエイティブのセンス、両方を持っている人はなかなかいない。面白いものがつくれるだけでは、アーティストの領域になっちゃう。ブランディングは経営と直結しているものなので、経営センスを持ちながら、感動を与えられるものは何か、クリエイティブは何か、という感覚。政治家にもそういう人たちが求められていますね。
齊藤:どうしたらそんな人たちが育つのでしょうか。
佐藤さん:いくら大学で本を読んでも、クリエイティブなセンスはクリエイティブな体験をしてないと身につかない。音楽でも書道でも、どこかでそういうセンスを鍛えられてる人がビジネス的なセンスを身につけていくと、両方のセンスがある人になりうる。小さな頃から、何かに没頭した「純粋経験」があるかどうかは、その後にすごい影響しますね。そういう人がいっぱい育っていったら、世の中のクリエイティブの力が活きる。優れたクリエイターは日本にたくさんいるので活かさないとね。たとえ経営者が自分でできなくても、任せられる人間を雇えばいい。でも誰に任せていいかわからないのは、そのセンスがない段階でアウトですね。
齊藤:最後に、もう10年ほど前になりますが、作っていただいたSMOのロゴ、本当に感謝です(笑)ありがとうございます。作った時に思い描いたことや覚えていらっしゃることはありますか?
佐藤さん:まず、SMOさんがいろんな仕事をしていくにあたり、個性を強く出しすぎないで、スタンダードな印象にされた方が良いと思ったんです。そこで明朝体ながら、横線をすごーく細くして、
会社の繊細さ・丁寧さを表現した。
メルセデスベンツのロゴでいうと、
とんがっていて円につながっている、
その線の細さに、高性能なエンジニアリングを示しています。SMOさんも、非常に繊細だけど、ニュートラルで、どこにでも行ける。かつ、ずっと見ているうちに、他にはないオリジナル書体なので、なんとなくじわじわと記憶にだっていくだろうと。ぱっと見て個性を感じるのではなくて、長いこと使っていただいて、「これはSMOのロゴだよね!」と感じられる、そういう感覚で作っています。
齊藤:まさに、10年後、20年後、古くなっていない、古くならないロゴですよね。会社の顔・クオリティーの高さの誇りとして、これからも大切に使い続けます。今日はありがとうございました。
佐藤卓
株式会社TSDO代表取締役会長
1979年東京藝術大学デザイン科卒業、81年同大学院修了。株式会社電通を経て、84年独立。
「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」バッケージデザイン「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」グラフィック
デザイン、「国立科学博物館」シンボルマーク等を手掛ける他、商品や施設のプランディング、企業のCIを中心に活動。
NHK Eテレ「デザインあ」総合指導、21_21 DESIGN SIGHT館長を務め、展覧会も企画・開催。著書に『塑する思考」(新潮社)等。